同姓婚-私たち弁護士夫婦です

南和行弁護士の『同性婚-私たち弁護士夫夫です』(祥伝社、2015)という本を読みました。

この本では、同性婚に関する法律問題、憲法問題などが検討されていますが、今の家族法をどう見るかという観点からも大変参考になりました。既存の婚姻制度の枠組み以外で共同関係を構築しようとすると、法的保護がないことで様々な問題が発生する、ということが良く分かります。

 

同姓婚

まったく話は変わって、私は2007年に従前の勤務先を寿退社し、それから配偶者と共に弁護士法人を立ち上げていますが、元々、私も配偶者も氏(姓)は「岩田」です。

この氏はそれほど少なくないとしても、例えば、田中さんや鈴木さんや佐藤さんほどは多く見かけたりするわけでもありませんから、それなりに稀なことではあります。

 

法律婚の意味

さて、氏の呼称が元々同じであれば、事実婚でも法律婚と見かけは同じという気もします。

しかし、見かけが変わらなければ、逆に法律婚には固有の意味が出てきます。例えば、事実婚では夫婦のどちらか突然死んだ場合には相続財産の処理が極めて面倒なことになりますし、また一方が突然認知症になったり重度後遺障害を負ったりするとこれまた何かと大変です1。子供が生まれれば認知の必要も生じます。

そうすると、名前が変わらないなら、法律婚にしといた方が何かと面倒は少ない、ということにはなります。

 

法律婚の問題点

法律婚をするとなると、民法750条によりいずれかの氏を称することになりますが、元々の氏の呼称が同じだと、事実上この問題に直面しません2

もっとも、どちらを戸籍の筆頭者にするのかという問題はあるのですが、結果的には私が筆頭者になりました3

ただ、このあたりが問題の核心ということではあります。

民法750条が婚姻後の氏をいずれかに定めるとしているのは、形式的には男女平等な規定だということにはなりますが、男性側の氏が選ばれることが多いという慣習の存在を通せば、一般的には女性が氏を選択する機会を奪っているのだともいえます4

 

婚姻後の実情

婚姻後何か変わりがあったかというと、私はともかく、戸籍上は氏を変更した配偶者も、諸々の不便を感じないで済む利点はあったようです。

例えば、ハンコを作り直す必要がなく、銀行口座の名義も変化せず、戸籍上の氏名と職務上の氏名との食い違いをいちいち証明する必要が出てきません。なお、どうなるのかと思ったのですが、外形的には変わってないでしょということで『自由と正義』には公告されませんでした5

 

通称使用の負担

氏名が変わることのとらえ方は人それぞれかもしれませんが、実際問題としては何かとややこしいことが生ずることはあります。

特に、自分の名前を前面に出して仕事をすることが普通である弁護士界隈では、深刻な問題だということが聞こえて来ます。

例えば、銀行でも、裁判所でも、法律上の氏名と職務上の氏名が違うことをいちいち証明しなければならないと不利益が現実化します。実際に、金融機関によっては職務上の氏名では口座開設できないという場合もあるように聞いたことはありました。

そして、婚姻中は、職務上の氏名と法律上の氏名の食い違いが生じ続けますから、本人確認を要する場面で、両者の同一性を証明する負担が常に生じることになります。

 

最高裁判決

ご承知のとおり、最高裁は民法750条の規定は合憲であるとの判決を示しました6。この判決もいかがなものでしょうか7

婚姻しても従前の氏を名乗りたいという人は構造的な少数者であるように思います8。そうすると、裁判所が救済してくれなければ救われる機会はあるのかどうか分かりません。

そこで、その役割からいえば、最高裁が違憲判決を出すべき場面だということで期待はしていたところでしたから、大変残念でした。

 

まとめ

以上、氏の制度は、単なる利便性だけの問題ではないという考え方もあるでしょうから、夫婦の氏をどうするかという問題の答えを導くのは難しいことではあります。

しかし、婚姻の前後を通じて名前が変わらずに済めば、確かに諸々の不便はないといえますし、利便性とは関係なく名前を変えたくない人もいるでしょう。そうであれば、少なくとも、選択的な夫婦別氏の制度は導入してもいいんじゃないかということは思っている次第です。

 

 



  1. 事実婚の場合に相続や後見などの局面でどのような問題が生じるかという点について、同性婚の場合を主とした説明として、南和行先生の本に詳細な説明がなされていることは参考になる(前掲書72~109頁)。 

  2. なお、この点に関しては、「夫も妻も婚姻前の氏を完全に失って、別個の新しい氏になる」という見解だとか、「夫婦の従来の氏の呼称が同じ場合には、夫婦はいずれも改氏せず、離婚、復籍しても氏には変動をきたさない」といった説もある(青山道夫・有地亨編『新版注釈民法(21)親族(1)』353頁〔有斐閣、1989〕)。 

  3. 女性が筆頭者となっている戸籍を見ることは離婚後に戸籍を新しく作ったケースを除けば極めて稀で、体感的には1割未満であるように感じられる。実際の統計上も、そのような数字のようである。 

  4. 夫婦別姓訴訟における高橋和之先生の意見書に詳しく論じられている。(PDF)http://www.asahi-net.or.jp/~dv3m-ymsk/takahasi.pdf 

  5. 今では掲載が省略される場合があるが、当時は弁護士の氏名変更は基本的に公告されていたという記憶である。 

  6. 最高裁判所大法廷平成27年12月16日判決(PDF)http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/546/085546_hanrei.pdf 

  7. 特に多数意見が「しかし、夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ、上記の不利益は、このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。」と判示している点は、前述のとおり通称使用をすることでむしろ不利益が生ずることもあると思うと違和感を禁じ得ないし、また、通称使用が本当に社会的に広まっているかどうかも実際のところ疑わしい。 

  8. 婚姻する人々の総数の2分の1よりもその人数は少なくなるはずであるから、氏の変更により不利益を受けたと感じる人は、常に社会内の少数派の立場に置かれることになると思われるのだが、どうであろうか。