対話篇・司法制度改革

司法制度改革が頓挫した近未来、ロースクールが次々と閉鎖されていく中、渦巻く全ての関係者の怨念は一つに結集し、遂に人知を超えた存在を生み出すに至った。

その名は、鬼教授である。

この対話篇は、猪突猛進して鬼教授に議論を挑んだ、身の程を知らない一匹のいのししの物語である1

 

鬼教授
司法制度改革について語ろう。

いのしし
ロースクール、法テラス、裁判員制度、という三本の柱がありましたね2

鬼教授
ロースクールの理念からは予備試験なんて許せない。法務博士でなければ良き法律家にはなれないのだ!3
鬼教授
Yo!Yo!俺は鬼教授
ロー設立の悲願が成就
掲げる理念!
渦巻く意見!
不可付けまくるぜ
今日も試験!!
いのしし
ローの講義は 双方向
気づいてみれば TV聴講4
次々作る 法務博士
合格率は いまも博打5
5年経過で 資格欠くし6
Yeah!!
いのしし
って感じのバトルな双方向講義をやるってことでよかったですかね?
鬼教授
違うわ。さりげなくdis7ってんじゃねえよw
いのしし
Hip Hopを本業にしようと思ってまして。
鬼教授
日弁連も兼業を薦めるご時世だし良いことだね。
いのしし
ソクラテスメソッド8をやるなんて話でしたが、難しかったようですね9。最近はICT10活用なんて言い出し始める有様で、もう理念もクソもありませんよ。
鬼教授
・・・
鬼教授
法テラスも司法制度改革が生み出した大きな成果だ。今や、法の光は社会の隅々を照らしている。
いのしし
どうでしょうか。法テラスを使う場合の事務手続は余りに繁雑な上、報酬をダンピングするので、弁護士たちからは強烈な不満の声が出ています。
鬼教授
あいつらはいつも文句ばっかりで理念を分かろうとしない。
いのしし
あまりに法テラスの事務の要領がひどいものだから、しまいにはクソテラスメソッドなんて揶揄されている始末ですよ。
いのしし
ロースクールと法テラスのコラボで司法制度を改革しちゃった感じが軽妙に表現されてますね。
鬼教授
面白くない。
鬼教授
裁判員制度も、民衆が裁判に参加することで裁判所への信頼を高める役割を果たしている。
いのしし
その割には呼び出されても来ない人がずいぶん多いようで困ったものです11
鬼教授
古代ギリシアの時代には裁判に民衆が参加するのは権利とされていた。
いのしし
そしてソクラテスを死刑に追いやったのですね。
いのしし
クソテラスメソッドって、司法制度改革のすべての柱に通ずる味わい深い言葉に思えてきました。
鬼教授
奇怪な言葉広めた無教養のクソ連中は絶許12
いのしし
まあまあ落ち着いてください鬼教授。
鬼教授
問題の捉え方が間違っている。
いのしし
食べていけるかどうかを考えるのは間違っているというのでしょうか?
鬼教授
貴様はぼたん鍋となって喜んで成仏できるであろう。
いのしし
やめてください。
鬼教授
地方では弁護士が足りないからヤクザや地域の有力者に頼んで紛争を解決してもらっている人がたくさんいる。
いのしし
地方の人々をバカにしてますね。あまりにひどいことをおっしゃると仲間を放って抗議しますよ。
鬼教授
地方でそうした潜在的な需要を掘り起こせば、まだまだ仕事はある。
いのしし

いのしし
餅描いてみたよ!
鬼教授
需要が供給を生むのではなく、供給が需要を生むのだ。
いのしし
要らないってところに弁護士押しつけてどうすんだよもう…
鬼教授
だから、もっと弁護士を増やせということだ。
いのしし
ただ増やせというのでは烏合の衆を生み出すことにならないのでしょうか。
鬼教授
ロースクールでは既存の弁護士とは少し違った弁護士を作っている。
いのしし
最近はローに入学する人が少なくなり過ぎてしまったこともあって、むしろ多様性が損なわれているような気がします。
鬼教授
追い込まれた弁護士が必死に知恵を出せば、何かが開かれるのだ。
いのしし
必死に悪知恵を出せば、刑務所の扉が開かれるとでもいうのだろうか…
いのしし
呑気なことを…弁護士もただの事業者ですから、追い込まれすぎて資金繰りが止まったら事業が飛ぶのは他の仕事と同じですよ。
鬼教授
弁護士がいない街に事務所を構えたら大盛況ということもある。
いのしし
そのような街はいくらでもあるのですから、ご自身で開業すりゃあいいんじゃないでしょうか。
鬼教授
市民は裁判所がない地域にも住んでいる。
いのしし
イノシシも裁判所がない地域にも住んでいるよ!13
いのしし
弁護士の新規登録先も大都市に集中する傾向が強くなっていますし、もはや過疎の問題は弁護士の力ではどうにもならない話のようです。
鬼教授
では、どうしたらよいか。
いのしし
自分で処方箋を書けない人たちが社会生活上の医師を量産しようとしてどうするんですかwww
いのしし
先生の理論にトドメを刺す最良の方法は何でしょう?
鬼教授
我が理論は殺され得ない。ただ成仏するのみである。
鬼教授
そして私も成仏する。
いのしし
ところで、先生は鬼ですね?14
鬼教授
然り、見てのとおりである。
いのしし
鬼は地獄にいるべきものですよね?
鬼教授
そのとおりだ。
いのしし
極楽浄土は地獄の対極にあるのですか?
鬼教授
そうだね。
いのしし
成仏とは極楽浄土へ行くことでしょうか?
鬼教授
そうだ。
いのしし
先生は鬼であり、地獄にいるべきものであることから、地獄の対極にある極楽浄土へ行けないことになります。よって、先生は成仏できません。Q.E.D15
鬼教授
私を信じすぎてはいけない。

(終)

 

 



  1. いうまでもないがフィクションである。 

  2. 正確にいうならば、「国民の期待に応える司法制度」「司法制度を支える法曹の在り方」「国民的基盤の確立」ということであるが、具体的な施策のうち最も重要かつ影響が大きかったものがこれらの制度ということになると思われる。http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/kentoukai/adr/dai1/1siryou1_3_1.html 

  3. 法科大学院協会『予備試験のあり方に関する意見書』9頁「予備試験の現状をこのまま放置すると…ごく近い将来、法科大学院を中核とする法曹養成制度が瓦解するおそれがきわめて大きい。予備試験制度の根本的な改革は喫緊の課題であり…改革が実現するまでの間、予備試験の合格者数を制限することによって、予備試験が法科大学院制度に及ぼす悪影響をできるだけ小さくすることが不可欠である。」(PDF)http://lskyokai.jp/press/press14.pdf 

  4. 後述するICTについての註10を参照されたい。 

  5. 新司法試験制度導入時の合格率の目標は7~8割といわれていたが、この数字は一度も達成できないままであり、結局、近年の合格率は概ね20%台前半のあたりで低迷している状況となっている(なお、平成28年の対受験者合格率は22.95%であった。)。 

  6. 司法試験は、法科大学院修了後5年間の間に受ける必要がある(司法試験法4条1項1号)。このような期間制限が課されているのは、一定期間が経過すると法科大学院での教育効果がなくなることを理由とするようである。意味に乏しい要件であると思う。 

  7. disrespect(失礼な扱い方をする)の意。 

  8. 専門職大学院においては、その目的を達成し得る実践的な教育を行うよう専攻分野に応じ事例研究、現地調査又は双方向若しくは多方向に行われる討論若しくは質疑応答その他の適切な方法により授業を行うなど適切に配慮しなければならない(専門職大学院設置基準8条1項)。 

  9. ソクラテス式の問答法に従うならば、法律学の講義でも「学生にある命題Pを主張させる」→「教授は他の命題Q・R・Sを学生に認めさせる」→「教授はQ・R・SがPではないという結論を導く」→「Pは偽であると教授が主張し学生を論駁する」といった手順をたどるということになるのであろう。私は経験がないので、法律学の講義でこれをやるとどうなるか想像が付かない。もちろん、ちゃんとできる人もいるのだろうが、教え手も学び手も大変過ぎて、現実の運用は難しいように思う。 

  10. Information and Communication Technologyの略。テレビ会議システムを使って授業をやるとか、そういうことのようである。専門職大学院設置基準8条2項によればそのような方法も許容されているが、予備校で伊藤真のビデオを見て勉強するのと何が違うというのであろうか。そもそも、法律学はICTを活用しても十分な教育効果が得られる専攻分野であると認めざるをえないのであれば、法科大学院の敗北であろう。なお「法科大学院教育におけるICTの活用に関する調査研究」を参照されたい。http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1371442.htm 

  11. 個人的には、裁判員制度の良し悪しについては計りかねている(弁護人の立場からは、色々と気苦労は増えた。)。ただ、制度導入後、年々裁判員候補者の出席率は低下しており、平成28年11月の速報値によれば24.0%ということである。制度が定着して、司法に対する国民の信頼が益々高まるというところまで至るには、なお課題は少なくないということにはなるのだろう。(PDF)http://www.saibanln.courts.go.jp/vcms_lf/h28_11_saibanlnsokuhou.pdf#page=6 

  12. 絶対に許さないの意。 

  13. 但し、北海道には野生のイノシシは生息しない模様である。 

  14. 以下の内容については、便宜上、鬼教授が質問を全て認める形になっているが、鬼、地獄、成仏、極楽浄土などの概念及びそれらの相互関係に関しては、諸説あるところのようではある。 

  15. Quod Erat Demonstrandumの略。証明終了の意。